三宅香帆竹下隆一郎

三宅香帆さんと竹下隆一郎さんのおすすめ本9冊まとめ|村上春樹『夏帆』の読み方から、ミドル・エイジ・ビギンズ、暗殺の幕末維新史まで

出典:TBS CROSS DIG with Bloomberg『Page Turners』

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文芸評論家の三宅香帆さんとTBSの竹下隆一郎さんが、読んだ本を持ち寄る『Page Turners』。2026年8月16日公開の回では9冊が挙がり、後半の14分ほどは村上春樹さんの『夏帆』の話でした。

こばん
こばん

9冊、どんな本を紹介してたの。

しゅり
しゅり

小説やエッセイ、歴史の本までさまざまです。動画での紹介と、いまの値段を1冊ずつまとめました。

動画で話した順に、『夏帆』より前の8冊

『魔女の体力』|40代の編集者が体力をつけて変身していく、ポップなエッセイ

1冊目は竹下さんから。三宅さんからもらった本だそうです。竹下さんは、40代の韓国の女性編集者が体力をつけることで、どう変身していくかの物語で、ポップだし夫との関係もいい、と紹介していました。

三宅さんは、文章を書いたり本を読んだりする中でも体力は大事だと思うことがあり、村上春樹さんも走っていたりと、体に気をつけている人が多いと最近本当に思うそうです。その意味でも『魔女の体力』は、三宅さんにとってホットな本だったとのこと。

竹下さんがすごくよかったと話していたのは、体力をつける話でも、やたらマッチョすぎないところ。編集者が自転車に乗ったりと、あまり無理をしていない感じがしたそうです。

竹下さんどんな体力の話か

だから文章を書いている人の体力だなと思うし

また、韓国と日本は、抑圧されている感じとかが似ていると思った、と竹下さんが言うと、三宅さんもそうですねと受けて、夫婦関係もちょっと似ていそう、と話していました。

イ・ヨンミ/田中千晴 訳

魔女の体力 40歳、女性が体力をつけるべきとき

魔女の体力 40歳、女性が体力をつけるべきとき

プールに通い、夜の空き地を走り、かご付きの自転車で買い物へ。机に向かいっぱなしで体力のなかった韓国の出版編集者が、40歳でゼロから体を動かし始め、朝型の運動好きへ変わっていくエッセイです。体力がついて変わった世界の見え方や、40代からの働き方、年の重ね方も綴られます。

出版社
世界文化社
刊行
2026年3月
仕様
四六判変型・336ページ
楽天評価
4.3/5(18件)
値段
定価 ¥1,925

『ミドル・エイジ・ビギンズ』|中年を、年齢ではなくキャリアの問題として読む

2冊目は三宅さんから。竹下さんも読んでいた1冊で、臨床心理士の東畑開人さんが、作家の角田光代さんやミュージシャンの尾崎世界観さんたちに、中年とは何か、上り調子だけではない時期とどう付き合っていくのかを聞いていく本だと紹介していました。

三宅さんの推しポイント

  • ただのインタビュー集ではない——東畑さんが中年とは何かを4つに分けて、それぞれの物語を聞いていく感じになっていて、1冊読むとタイトルの意味が分かる
  • 日本全体が実は中年の時期に差し掛かっているのでは、という問いかけまで真に迫る

三宅さんがめちゃくちゃ面白かったと話していたのは、尾崎世界観さんの回です。若いうちから音楽をずっとやってきた尾崎さんが、年齢的には全然中年ではない時期から、三宅さんの言い方では「カードの全貌が終わった感じ」を語っていて、それは実は年齢の問題ではなく、キャリアの中で全カードが見えたときにどうするかの問題なんだ、という話だったそうです。竹下さんはそれを、キャリアを重ねてカードをどんどん手に入れてきて、これ以上はもう無いとなったら、あとはどう切っていくかの勝負だと受け取った、と話していました。

東畑開人

ミドル・エイジ・ビギンズ

ミドル・エイジ・ビギンズ

40代に入った臨床心理士が、自分の行き詰まりをきっかけに、尾崎世界観さん、角田光代さん、鷲田清一さん、千正康裕さんの4人に話を聞きます。急に体が無理をきかなくなる、目指していた役職に若手が選ばれる。いつの間にか始まっている中年期と、その危機を考える1冊です。

出版社
KADOKAWA
刊行
2026年7月
仕様
四六判・320ページ
楽天評価
3.7/5(29件)
値段
定価 ¥2,090

『神さまショッピング』|夫に内緒で神さまに会いに行く妻を、夫の目線で読む

3冊目は竹下さんから。これも三宅さんからもらった本だそうです。夫がゴルフに行くのをチャンスに、妻が九州へ行くと嘘をついて、スリランカの神さまに会いに行く話が入っているそうです。竹下さん曰く、こういうドラマは超ざっくり言うとたいていどちらかが不倫しているのに、この話はそうではないとのこと。本当のところパートナーのことは分からない、そのスリルを夫の目線で読んだそうです。

三宅さんは、パートナーが内緒で神さまに会ってきたら驚かないかと聞いていました。竹下さんは、信頼するパートナーにさえ言わず、1人で会いに行く、その行為自体が神さまと向き合うことなのだと感じたそうです。

竹下さん神さまに会うとは、どういうことか

もう行っている時点で神に会っていると思った

三宅さんは、面白い、と受けてから、日本人はあまり信仰がないと言われがちだけれど、この本を読むと、信じることについていろいろ考える、と続けていて、竹下さんは、神の概念はちょっと違うと思うので英訳してほしい、と話していました。

角田光代

神さまショッピング

神さまショッピング

夫に黙ってスリランカへ発った美津紀。あの人との縁が切れるなら何を失ってもいいと、京都の神社をめざす鶴子。寺や仏閣を巡った末に、パリにある奇跡の教会までたどり着く吉乃。人には言えない願いを抱えて、自分だけの神さまを探しに出かける8人を描いた短篇集です。

出版社
新潮社
刊行
2025年9月
仕様
四六判・216ページ
楽天評価
3.0/5(71件)
値段
定価 ¥1,760

『日本史はいかに物語られてきたか』|読んできた小説の時代背景が分かる面白さ

4冊目は三宅さんから。戦後にいろいろな人が日本史をどう語ってきたかを並べて、歴史がどうやって物語られてきたかを読み解く本だそうです。

三宅さんは、歴史が好きで、司馬遼太郎や松本清張の小説を楽しんで読んできたそうです。この本の面白さとして挙げていたのは、そうした小説が、どんな時代背景のもとで書かれたのか分かること。三宅さんは、1970年代や1980年代に、それぞれどんな歴史の見方が流行していたかという話を例に挙げていました。

ほかにも、政治学者の佐藤誠三郎さんと文化人類学者の山口昌男さんが東大の同じ時期に学んでいて、同じ歴史観を意外と共有しているところもある、という話が出てくるそうです。知っている作者の背景を知る面白さを、三宅さんはこう話していました。

三宅さん知っている作者のバックグラウンドを知ると

そことそこで繋がるんやみたいな快感がすごいあって

竹下さんは、本が残っていても、書かれた当時の雰囲気までは、その本だけでは分からないことがあると話していました。三宅さんも、小説は基本的に単独で読むので、こうした副読本があると、そういうことだったのかと分かる面があると思う、と応じていました。

河野有理

日本史はいかに物語られてきたか(新潮選書)

日本史はいかに物語られてきたか(新潮選書)

『坂の上の雲』や『日本沈没』から『日本国紀』まで。戦後に日本の歴史を物語った20人の本を17の章で取り上げ、皇国史観ともマルクス史観とも違う歴史観が競い合う場が、どう育ち、なぜしぼんでいったのかをたどる思想史です。

出版社
新潮社
刊行
2026年5月
仕様
四六判変型・320ページ
値段
定価 ¥1,980

『1619年プロジェクト(上)』|アメリカの始まりを1619年に置き直す、批判もある本

5冊目は竹下さんから。アメリカの建国史はふつう1776年から始まるけれど、そのはるか前の1619年に黒人奴隷がバージニアに降り立った、そこをアメリカの始まりだと書いた本だと説明し、歴史の扱いや、かえって分断を呼ぶという意味で批判もある本だ、とも押さえていました。

竹下さんによると、建国250周年のアメリカでは、1776年を歴史の始まりとしてよいのかが議論になっているそうです。黒人の歴史を全然入れていなかったことや、ジェファーソンら建国の父が奴隷を所有していたことも議論になっていて、独立記念日を誰もが祝うわけではないと話していました。

また、歴史を語るときには、どうしても教訓を入れてしまうと思うし、語る人の倫理観も反映される、とも竹下さん。例に挙げていたのは、ワシントンが桜の木を折ったと正直に告白する話で、どこまで本当なのか、と話していました。その話が「正直に言うことは偉いことです」という教訓になり、そうして、ワシントンのようになりましょうと、歴史上の人物にどんどん主人公要素を足していってしまう、とも話していました。

ニコール・ハナ=ジョーンズ 編著/森本奈理 訳

1619年プロジェクト(上) アメリカの黒人差別の歴史

1619年プロジェクト(上) アメリカの黒人差別の歴史

アメリカの始まりを1776年ではなく、アフリカ人奴隷が初めてバージニアに着いた1619年に置き直す本。上巻は民主主義、人種、砂糖、恐怖、資本主義などの論考のあいだに、詩や短篇が挟まります。トランプ大統領からは非難され、ハリス前副大統領からは称賛されて、大きな論争を呼びました。

出版社
白水社
刊行
2025年6月
仕様
四六判・404ページ
値段
定価 ¥4,180

『暗殺の幕末維新史』|幕末から明治の暗殺を、暗殺された側の無念から読む

6冊目は三宅さんから。竹下さんの話を受けて、歴史の中で主人公にされた人物の1人が坂本龍馬だ、と切り出しました。明治の自由民権運動のころ、プロパガンダ小説のように龍馬の小説を書いた人がいて、それが結構流行って龍馬が主人公になったらしく、その小説のことも書いていたのがこの本だそうです。三宅さんは元々歴史が好きで、暗殺は暗殺だと思って読んでいたけれど、いまは暗殺された側と同い年くらいになって、無念すぎないか、という気持ちになるそうです。

三宅さんの推しポイント

  • 「天誅」という言い方が、幕末に流行ったものだと分かる——幕末より前は、「誅戮」のような言い方だった
  • 幕末の漫画『だんドーン』と合わせて読むと、めちゃくちゃ面白い
  • 二・二六事件や五・一五事件につながる流れを、読み返したい人におすすめ——明治になってからも暗殺が続いていた、という話も書かれている

竹下さんは、幕末には暗殺と言論が密接に結びつき、言論する人も、もしかしたら暗殺されるかもしれないという前提で生きていたと話していました。30代、40代で、まさにこれから日本を、世界を変えようとしているときに人生が突然途絶えるのは、相当な無念だと思うと続けていました。

一坂太郎

暗殺の幕末維新史 桜田門外の変から大久保利通暗殺まで(中公新書)

暗殺の幕末維新史 桜田門外の変から大久保利通暗殺まで(中公新書)

大老・井伊直弼から、明治に入ってからの大久保利通まで。政権の中心にいた人から、坂本龍馬ら志士や外国人、町に暮らすふつうの人までが相次いで狙われた幕末維新の暗殺を追います。事件を世間はどう受け止め、のちの明治の国家は暗殺者をどう扱ったのかまでたどります。

出版社
中央公論新社
刊行
2020年11月
仕様
新書・256ページ
楽天評価
4.1/5(13件)
値段
定価 ¥902

『体の居場所をつくる』|体と自分がうまくつながりにくいとき、どう生きていくのか

7冊目も三宅さんから。研究者の伊藤亜紗さんが、摂食障害の方、自分の筋肉をうまく動かせない病気にかかった方、ナルコレプシーという眠くなってしまう睡眠障害の方など、体が自分でコントロールできない方にインタビューしている本だと紹介していました。

三宅さん曰く、映画『急に具合が悪くなる』も、自分の身体性みたいなものと他者の身体の話をしていたと思う、結構同じ話だと思いながら読んだとのことです。体を物として考えないことや、体がうまく自分とつながりにくいときにどう生きていくのかについての本だそうです。明確な結論があるというより、自分の体を経験するとはどういうことなのかを考えることになる、と話していました。

伊藤亜紗

体の居場所をつくる

体の居場所をつくる

四半世紀、摂食障害と生きてきたヨウさん。脊髄性筋萎縮症があり、ヘルパーさんに24時間支えられて自立生活を送るシンさん。人種的マイノリティも含め、体に「問題」を抱える11人が、日々の工夫で体の居場所をどうつくってきたかを、著者が一人ひとりの言葉に耳を傾けて探ります。

出版社
朝日出版社
刊行
2026年2月
仕様
四六判・312ページ
楽天評価
4.2/5(16件)
値段
定価 ¥2,090

『シリコンバレーによろしく』|渡米して起業する、ちょっと2010年代っぽい青年の本

8冊目は竹下さんから。すごくドメスティックな若者が渡米して、シリコンバレーでAnyplaceという会社をゼロから立ち上げた物語だそうです。竹下さんは、読んでちょっと2010年代っぽいと思ったそうです。理由の1つは、いまのスタートアップにはちょっと冬の時代の面もあることで、AIが全部解決できてしまうので新しいアイデアがちょっと生まれにくいと思うし、インフレでVCや金融機関もじゃぶじゃぶお金を貸さない、と話していました。

もう1つは、竹下さん自身の経験です。2010年代にシリコンバレーへ行ったころの、何かを変えてやろうという気分も、この本を2010年代っぽいと感じた理由にあると思う、と話していました。

竹下さんは、いまの自分のテンションとはちょっと違ったけれど、やっぱり青年の本なので、こういう本を定期的に読むのはいいと思った、と話していました。

竹下さん定期的に読むと、何がいいか

本当の青年の思いが蘇ってくる

内藤聡

シリコンバレーによろしく お金もコネも英語力もない僕のアメリカ起業

シリコンバレーによろしく お金もコネも英語力もない僕のアメリカ起業

お金もコネもなく、英語もほとんど話せないまま、ある映画をきっかけに起業へ憧れて単身アメリカへ渡った著者の10年。2015年に設立した会社の事業は失敗し、試行錯誤の末に、リモートで働く人向けの賃貸の事業Anyplaceを始めます。出資したなかにはYouTubeの共同創業者もいます。

出版社
大和書房
刊行
2026年6月
仕様
四六判・360ページ
値段
定価 ¥2,090/Kindle ¥2,048

村上春樹『夏帆』を、2人はどう読んだか

『夏帆─The Tale of KAHO─』|ありくいも出てくる話を、リアリズムの文体で書いた長編

三宅さんは、77歳の村上さんが、長いキャリアを経ても新しいテーマに挑戦していることにビックリした、と話していました。挙げたのは女性が主人公であることで、竹下さんが、村上作品ではおそらく本格的には初めてと言うと、三宅さんも、そうですね、『1Q84』とかはあったけど、と受けていました。

竹下さんに、この本を評価しているかと聞かれると、三宅さんは、好きだけれど、それには個人的なものも入っていて、村上さんはもともと好きなんです、と答え、ありくいの話とか変な話じゃないですか、と続けていました。

三宅さん『夏帆』の文章を、どう読んだか

こんな変な話がこんな読ませられる文章になっている

竹下さんは、本としていいか悪いかは言いづらくて分からないけれど、文章は、村上さんなら当たり前ですけどすごい、と話していました。三宅さんも、こういう文章を書けることがどれだけすごいことか、最近になって思うのだそうです。こんなに意味が分からない小説を、みんなに読ませるなんて、というすごさです。たとえば夢の話は、他の人が書いたら目も当てられなくなる、と三宅さんが言うと、竹下さんも、もう破綻する、と受けていました。

しゅり
しゅり

三宅さんの、そんな内容なのに村上さんだから読ませる文章になっている、というのが印象に残りました。こんな表現を聞いたら、内容も文章も気になってしまいます。

竹下さんが面白いと話していたのは、リアルと非リアルが全部リアリズムの文体で書かれていることです。これまでの作品なら、井戸に潜る、壁をすり抜けるといったところで異世界に入ったと分かるのに、今回は、ありくいも、お母さんもお父さんも、ただそこにいて、それが分からないのだそうです。三宅さんは、確かに、と受けつつ、『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』など、割と初期の作品はリアルと非リアルの書き方がそうだったので、1周回って逆に初期っぽいとも思った、と話していました。

村上春樹

夏帆─The Tale of KAHO─

夏帆─The Tale of KAHO─

26歳の絵本作家・夏帆は、初めて会った男に、いきなり醜いと言われます。特別に美しいわけでも賢いわけでもなく、ちょっと好奇心が強いだけの彼女は、怒るよりも、ただ驚きます。そこから身のまわりで、奇妙なことがいろいろ起こり始めます。朗読会で読むために書かれた短編から育った長編です。

出版社
新潮社
刊行
2026年7月
仕様
四六判・352ページ
楽天評価
3.8/5(483件)
値段
定価 ¥2,860
ここからネタバレ

ここから「竹下さんの読み」の終わりまでは、三宅さんと竹下さんが、物語の後半と結末に関わるところまで話していた読み方です。まだ読んでいない方は、次の章「冒頭に流れる、2人が収録までの1か月に読んだ本」まで飛ばしてください。

三宅さんの読み(ネタバレあり)|最後の章で声が出た理由と、村上さんの物語論

三宅さんは雑誌『新潮』に1編ずつ載っていたころから読んでいて、最後の章を読んだときに声が出たそうです。比喩としての母殺しの話が出てくるからだそうで、娘の母殺しは三宅さん自身も書いていたテーマでした。

三宅さん曰く、村上作品にはこれまで母親がほぼ出てこず、出てきても、育ててくれた母親というより好きな対象としての母親という感じだったとのことです。

三宅さん村上作品の中で、何が珍しいか

育ての母親との関係はすごいテーマとして珍しい

もう一生書かないのかと思っていたので、ビックリしたそうです。

竹下さんは、三宅さんの本『娘が母を殺すには?』の図式で読むとどう見えるか、と聞いていました。三宅さんがその本に書いたのは、母は娘を強く支配するのではなく、逆に弱さで、並列の立場から支配してくる、ということです。だから、娘が出世したり強さを持ったりしても、比喩としての母殺しは果たせず、逃れようがない、と話していました。

三宅さんの推しポイント

  • 母親が弱さにつけ込まれる書かれ方が、面白い——強いように見えた母親が、実は弱さによる過ちにつけ込まれていた。こういう話は、あまり村上作品に出てこなかったと思う
  • 三宅さんだけでなく、自分のことを書いているのかと思ったという人が、周りに結構いる——自分のことだと読者に思わせる小説は、いい小説だと思う
  • 村上さんの物語論・創作論としても読める——主人公が絵本作家で、物語をつくるとはどういうことか、物語の中のキャラクターとの関係が、最後に主題として出てくる
  • 物語自体に救われてきた、という話でもあって、すごくグッときた

竹下さんの読み(ネタバレあり)|物語の中の悪と、どう向き合うか

竹下さんは、個人の読み方として、悪とどう向き合っているのかという視点でずっと読んだそうです。最初に出てくるモーターサイクルの男がすごく嫌いで、この男を悪だと思っている、と話していました。『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』や『ねじまき鳥クロニクル』で村上さんは悪と向き合ってきたと思うので、次はこの男の悪を書いてほしいと、ちょっと思った、とのことでした。

三宅さんは、この男は空虚っぽくないか、『女のいない男たち』に出てきた男性にちょっと似ていると思いながら読んだ、と返していました。竹下さんは、悪というとジャッジメンタルになってしまうけれど、そういう人がすごく苦手なので、どう向き合ったらいいのか、と話していました。村上さんの本にはいつも空虚な人が出てくるので、それを自分事として読んでいるそうです。

竹下さんの推しポイント

  • 人の弱い部分を、シロアリやありくいが担っている——弱さは本人の自己責任かもしれないけれど、そうではなく動物がいる。人間をちゃんと肯定している、すごく人間を大事にしている小説だと思った
  • シロアリの女王は、物語の中でも物語——実物のシロアリの女王と戦うのは良くないけれど、あくまで物語の女王として持ってきて、女王が悪いのかもしれないと思えるのは、みんなを救う気がする。物語を持ってくることで、みんなが自分の責任を一旦置いておける。悪は我々の頭の中にあるのかもしれない、と受け取った

人の弱い部分をシロアリやありくいが担う、という竹下さんの話には、三宅さんも、確かに、と受けて、シロアリは物語の比喩でもあり、物語が実は助けてくれているという話でもある、と重ねていました。

冒頭に流れる、2人が収録までの1か月に読んだ本

ネタバレはここまでです。

三宅香帆さんの18冊

生誕100年 森英恵 ヴァイタル・タイプ

生誕100年 森英恵 ヴァイタル・タイプ

島根県立石見美術館、国立新美術館 編著 ・ 青幻舎

別のしかたで ツイッター哲学

別のしかたで ツイッター哲学

千葉雅也 ・ 河出書房新社

夏帆 The Tale of KAHO

夏帆 The Tale of KAHO

村上春樹 ・ 新潮社

劇場という名の星座

劇場という名の星座

小川洋子 ・ 集英社

Tシャツの日本史

Tシャツの日本史

高畑鍬名 ・ 中央公論新社

わたしを庇わないで

わたしを庇わないで

石田夏穂 ・ 集英社

体の居場所をつくる

体の居場所をつくる

伊藤亜紗 ・ 朝日出版社

ノーメイク鑑定士

ノーメイク鑑定士

石田夏穂 ・ 中央公論新社

経済学的思考を組み立てる

経済学的思考を組み立てる

大竹文雄 ・ 中央公論新社

日本史はいかに物語られてきたか

日本史はいかに物語られてきたか

河野有理 ・ 新潮社

ミドル・エイジ・ビギンズ

ミドル・エイジ・ビギンズ

東畑開人 ・ KADOKAWA

緑十字のエース

緑十字のエース

石田夏穂 ・ 双葉社

コミュ力不要の社交術

コミュ力不要の社交術

古市憲寿 ・ 新潮社

掌に眠る舞台

掌に眠る舞台

小川洋子 ・ 集英社

祐真朋樹のSHOP-A-HOLIC MEMORIES

祐真朋樹のSHOP-A-HOLIC MEMORIES

祐真朋樹 ・ ソウ・スウィート・パブリッシング

多類婚姻譚

多類婚姻譚

凪良ゆう ・ 講談社

#台所のあるところ

#台所のあるところ

原田ひ香 ・ 文藝春秋

Amazon
暗殺の幕末維新史

暗殺の幕末維新史

一坂太郎 ・ 中央公論新社

竹下隆一郎さんの13冊

ザ・フェデラリスト

A.ハミルトン、J.ジェイ、J.マディソン/斎藤眞、中野勝郎 訳 ・ 岩波書店

Amazon
アメリカ革命

アメリカ革命

上村剛 ・ 中央公論新社

大量廃棄社会〜アパレルとコンビニの不都合な真実〜

大量廃棄社会〜アパレルとコンビニの不都合な真実〜

仲村和代、藤田さつき ・ 光文社

宇宙はどう生まれたのか

宇宙はどう生まれたのか

野村泰紀 ・ マガジンハウス

95%の宇宙

95%の宇宙

野村泰紀 ・ SBクリエイティブ

魔女の体力 40歳、女性が体力をつけるべきとき

魔女の体力 40歳、女性が体力をつけるべきとき

イ・ヨンミ/田中千晴 訳 ・ 世界文化社

神さまショッピング

神さまショッピング

角田光代 ・ 新潮社

シリコンバレーによろしく

シリコンバレーによろしく

内藤聡 ・ 大和書房

ミドル・エイジ・ビギンズ

ミドル・エイジ・ビギンズ

東畑開人 ・ KADOKAWA

夏帆 The Tale of KAHO

夏帆 The Tale of KAHO

村上春樹 ・ 新潮社

つくりたくなる日々レシピ

つくりたくなる日々レシピ

長谷川あかり ・ 扶桑社

中央公論 2026年7月号

中央公論新社

AmazonKindle版
1619年プロジェクト(上)

1619年プロジェクト(上)

ニコール・ハナ=ジョーンズ 編著/森本奈理 訳 ・ 白水社

動画で名前だけ挙がった本

紹介された9冊のほかに、話の流れで名前が出た本です。どれも、その本を取り上げて紹介したわけではないので、どこで出てきたかと、いま買える版を1冊ずつ確かめて並べました。

『カウンセリングとは何か』|『ミドル・エイジ・ビギンズ』の東畑開人さんが、カウンセリングを一冊で論じた本

03:43、竹下さんが『ミドル・エイジ・ビギンズ』の話をする中で、同じ東畑開人さんの本として名前を挙げました。

東畑開人

カウンセリングとは何か 変化するということ

カウンセリングとは何か 変化するということ

認知行動療法や家族療法、ユング心理学や精神分析など、別々に育ってきた心理療法をひとつの原論として見渡す新書です。カウンセリングは聞くだけではないとして5種類の介入に整理し、暮らしを守ること、人生をきちんと生きることの2つのゴールを示します。新書大賞2026を受賞しました。

出版社
講談社
刊行
2025年9月
仕様
新書・448ページ
楽天評価
4.6/5(315件)
値段
¥1,540

『推したちとどう生きるか』|竹下さんが発売前に読ませてもらった、三宅さん自身の新書

06:08、竹下さんが三宅さんの本として名前を挙げ、「ゲラ読ませてもらって良かった」と話していました。

三宅香帆

推したちとどう生きるか

推したちとどう生きるか

推し活を一時の熱狂ではなく、社会に根づいた文化として捉え直す新書です。推しが与えてくれるハレの日と、それとともにあるケの日常を見ながら、推しとどう続く関係を結べるかを考えます。推し活文化の源流から令和の現在までをたどり、消費社会の先にある推しの構造を読み解きます。

出版社
新潮社
刊行
2026年7月
仕様
新書・240ページ
楽天評価
3.8/5(31件)
値段
¥1,034

『福音派』|竹下さんと一緒に番組をやっている、加藤喜之さんの本

08:48、竹下さんが一緒に番組をやっている著者の本として名前を挙げました。

加藤喜之

福音派―終末論に引き裂かれるアメリカ社会

福音派―終末論に引き裂かれるアメリカ社会

アメリカ社会で福音派がどのように力を広げてきたのかを、戦後の歴史をたどって説明する新書です。鍵になるのは終末論で、そこから見ると、歴代大統領のふるまいだけでなく、中絶・同性婚・人種・イスラエルをめぐる対立の論点も見えてきます。原理主義との関わりから筆を起こします。

出版社
中央公論新社
刊行
2025年9月
仕様
新書・328ページ
楽天評価
4.1/5(102件)
値段
¥1,320

『だんドーン』|『暗殺の幕末維新史』と合わせて読むと面白い、と挙がった幕末の漫画

14:52、三宅さんが『暗殺の幕末維新史』と合わせて読むと面白い漫画として名前を挙げました。連載中の作品なので、カードは第1巻です。

泰三子

だんドーン(1)

だんドーン(1)

『ハコヅメ』の作者による、幕末を舞台にした漫画の第1巻です。薩長同盟や新撰組の取り締まり、薩摩と英国の衝突が続く時代の裏で、目立たないまま職務をこなした男がいました。「日本警察の父」と呼ばれるその人物は、愛国者なのか、裏切り者なのか。

出版社
講談社
刊行
2023年10月
仕様
コミック・192ページ
値段
¥759

『1Q84』|女性の主人公が出てくる村上作品の例として挙がった長編

20:00、三宅さんが『夏帆』の主人公の話をする中で、女性の主人公が出てくる村上作品の例として名前を挙げました。新潮文庫はBOOK1〜3がそれぞれ前編・後編に分かれていて、カードはその最初の1冊です。

村上春樹

1Q84 BOOK1〈4月-6月〉前編

1Q84 BOOK1〈4月-6月〉前編

青豆と天吾という2人の主人公が、それぞれの場所で物語を進めていく長編です。青豆は自分の知る1984年とは違う世界に入り込んだことに気づき、そこを1Q84年と呼ぶことにします。ヤナーチェックの『シンフォニエッタ』に導かれるように、2人の物語がはじまります。

出版社
新潮社
刊行
2012年3月
仕様
文庫・368ページ
楽天評価
3.9/5(664件)
値段
¥880

『海辺のカフカ』|『夏帆』の話の中で引かれた、村上作品の例

21:35、三宅さんが『夏帆』の話の中で、村上作品の例として名前を挙げました。文庫は上下巻で、カードは上巻です。

村上春樹

海辺のカフカ(上)

海辺のカフカ(上)

15歳の誕生日に家を出た少年が、遠く離れた街の小さな図書館で暮らしはじめる長編の上巻です。父の書斎から現金のほかに持ち出したのは、ライターやナイフ、サングラス、幼いころに姉と並んで写った写真でした。世界でいちばんタフな15歳になる、という言葉とともに旅に出ます。

出版社
新潮社
刊行
2005年3月
仕様
文庫・496ページ
楽天評価
4.0/5(1,374件)
値段
¥1,045

『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』|2人とも名前を挙げた、初期の村上作品

24:41に三宅さんが初期の村上作品の例として、25:12には竹下さんが悪と向き合ってきたと思う村上作品の例として、それぞれ名前を挙げました。文庫は上下巻で、カードは上巻です。

村上春樹

世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド(上)

世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド(上)

2つの物語が同時に進む長編の上巻です。ひとつは高い壁に囲まれて外の世界と接触のない街で、一角獣の頭骨から夢を読む〈僕〉の話。もうひとつは、老科学者の手で意識の奥に或る回路を仕込まれた〈私〉が、その正体を追う話。静かな幻想と冒険活劇が並んで動いていきます。

出版社
新潮社
刊行
2010年4月
仕様
文庫・480ページ
楽天評価
4.1/5(370件)
値段
¥990

『ねじまき鳥クロニクル』|悪と向き合ってきたと思う村上作品として、竹下さんが挙げた長編

25:14、竹下さんが、歴史が描かれていて悪と向き合ってきたと思う村上作品の例として名前を挙げました。文庫は全3部で、カードは第1部です。

村上春樹

ねじまき鳥クロニクル 第1部

ねじまき鳥クロニクル 第1部

「僕」とクミコが暮らす家から、飼い猫がいなくなる。そこから始まる長い年代記の第1部です。新潮文庫では全3部に分かれ、この巻には「泥棒かささぎ編」という副題がついています。その失踪のあと、世界は闇にのまれていきます。

出版社
新潮社
刊行
1997年9月
仕様
文庫・384ページ
楽天評価
3.9/5(699件)
値段
¥880

『女のいない男たち』|空虚な男性が出てくる村上作品として挙がった短編集

25:47、三宅さんが空虚な男性が出てくる村上作品の例として名前を挙げました。

村上春樹

女のいない男たち

女のいない男たち

映画『ドライブ・マイ・カー』の原作を含む短編集です。単行本は2014年刊行で、何かを失った6人の男たちを、それぞれ別の話で描きます。亡くなった妻の記憶に苛まれる舞台俳優の話などが収められ、映画は第94回アカデミー賞の国際長編映画賞を受けました。

出版社
文藝春秋
刊行
2016年10月
仕様
文庫・304ページ
楽天評価
3.7/5(592件)
値段
¥748

『ノルウェイの森』|『夏帆』の話の中で引かれた、村上作品の例

28:02、三宅さんが『夏帆』の話の中で、村上作品の例として名前を挙げました。文庫は上下巻で、カードは上巻です。

村上春樹

ノルウェイの森(上)

ノルウェイの森(上)

ハンブルク空港に着いた飛行機の中でビートルズの曲が流れ、「僕」が1969年の秋を思い出すところから始まる長編の上巻です。20歳になろうとしていたあの頃の出来事が、激しい動揺とともによみがえります。出版社は、喪失と再生を書いた恋愛小説と紹介しています。

出版社
講談社
刊行
2004年9月
仕様
文庫・304ページ
楽天評価
3.9/5(2,164件)
値段
¥792
こばんの台帳

今回の記録:三宅香帆さんと竹下隆一郎さんが読んだ本を持ち寄る回(35分9秒)を視聴。挙がった9冊と、名前だけ挙がった10冊、冒頭に流れた2人の一覧(三宅さん18冊・竹下さん13冊)を、1冊ずつ調べた。 結論:動画で分かるのは、9冊の書名とどんな本か、2人がどう読んだかまで。出版社の紹介と、一覧の本も含めたいまの値段と買える場所は、そのあとの調べもので分かった。

9冊とも、三宅さんと竹下さんが収録までの1か月に読んで持ち寄った本です。気になった本があったら、読んでみてください。

三宅香帆さんと竹下隆一郎さんのおすすめ本9冊まとめ|歴史ギャグ漫画『風雲児たち』から、ブリリアント・ジャーク、AIとペアを組む本まで

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同じ2人の、9月11日公開の回です。是枝裕和さんのノンフィクションから歴史ギャグ漫画まで、9冊を動画の順に並べました。

2026-09-15

三宅香帆さんと竹下隆一郎さんの、本の感想の伝え方まとめ|要約ではなく1点突破、伝えたい人を思い浮かべる、実写化を想像してみる

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同じ2人が、本の感想の伝え方を出し合った回です。竹下さんが1点突破の例に『夏帆』を挙げています。

2026-09-17

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