
小説『博士の愛した数式』感想|世界観を楽しみながらゆっくり読みました
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小川洋子さんの小説『博士の愛した数式』を、Kindleで読みました。

『博士の愛した数式』は、一気に読んだの?

いえ、世界観を楽しみながらゆっくり読みました。
今回は、前半にネタバレなしで、後半にネタバレありで、感想を書いていきます。
読みやすくて、心地よい世界観だからゆっくり読んだ
読みやすい
書評家の三宅香帆さんが小説入門に挙げていた1冊です。家政婦の「私」の視点でずっと語られていて、難しい言葉もありません。
登場人物の感情も素直に表現されていてわかりやすく、疲れている時でも、すらすら読めます。中途半端なところで止めてしまっても再開したらまたすぐ没入できる読みやすさです。
優しくて、どこか現実離れした世界観
主な登場人物は、次の3人です。
- 博士:数学者。新しい記憶は80分しかもちません。
- 「私」:博士の家で働く家政婦で、この小説の語り手。
- ルート:「私」の息子。
世界観を作っているものは、2つあると思います。1つは、人の優しさです。博士がルートを思いやり、「私」とルートも博士を大切にし続けています。いろんな人からいろんな人への想いが、優しくて穏やかな世界観を作っています。
もう1つは、博士の数学の話です。たとえば、紙に描き切れない直線が出てきます。数学でいう直線には端がなく、どこまでも続きます。直線についての話のあと、博士はこう言います。
永遠の真実は、目には見えないのだ。数学はその姿を解明し、表現することができる
「私」の誕生日を表す220と博士の腕時計に刻まれた284が、友愛数だとわかる場面もあります。自分自身を除いた約数を足すと互いの数になる、という組み合わせです。一見別々の数字も、数学を用いれば見えないつながりが見えてきます。
博士が言うように、世界には、目に見える現実だけでなく、見えない真実もあって、数学はそれを表せるのです。「本当に大切なものは、目に見えない」と言いますが、数学もそういった、大切でかけがえのない綺麗なものを表せるということなのかなと思いました。
人の優しさに、見えない真実の綺麗さが加わって、夢の中的な世界観を感じました。
満開の桜とか、晴れた日の青空とか、日が当たってキラキラしている海とか、身近にも綺麗だなと思うものがありますが、綺麗すぎて現実じゃないみたいに思うことがあります。読んでいても、そういった景色を見た時と同じように、どこか現実社会のノイズを感じないような世界観でした。
また、終始語り手の家政婦が過去形で語ることから、暗に博士との日々を振り返っていることが伝わり、切なさも感じます。
だからゆっくり読んだ
途中で止めても、読みやすくて続きも気になるので、積読になる心配はありませんでした。だから、この世界観を楽しむために、一気に読み切らず、ゆっくり読みました。
『短歌の友人』を思い出した博士の言葉
実生活の役に立たないからこそ、数学の秩序は美しいのだ
この言葉を読んだ時、前に感想を書いた、穂村弘さんの『短歌の友人』を思い出しました。
『短歌の友人』では、木製の月の輪ぐまの左のつめが、はじめから壊れていたという、東直子さんの歌が紹介されています。穂村さんは、その壊れたつめが書かれることで、月の輪ぐまが本当にあったかのように感じられる、と読んでいます。壊れたつめのような小さな違和感は、現実の社会では役に立たない情報だと、歌に現実感を出すうえでさらに望ましい、とも書いています。
「役に立たなさ」と「美しさ」には、関連があるのかもしれないと思いました。
『博士の愛した数式』の購入先
私が読んだのはKindle版です。下のリンク先は、紙の新潮文庫です。
小川洋子
博士の愛した数式(新潮文庫)

家政婦の「私」が語る、数学者とその暮らしの物語。新しい記憶が80分しか続かない博士のもとへ、10歳の息子も通うようになり、博士は息子にルートという呼び名をつけます。数字を介して3人が関わる日々を描いた、第1回本屋大賞受賞の小説です。
- 出版社
- 新潮社
- 刊行
- 2005年11月
- 仕様
- 文庫・304ページ
- 楽天評価
- 4.2/5(3,055件)
- 値段
- 定価 ¥693
ここからは、物語の後半の出来事にも触れながら、博士が残したメモと、母子との関係について考えます。未読の方は、読み終えてからどうぞ。
忘れても、メモを通して愛情は積み重なっていたのでは
博士はルートにいつも優しく接します。ただ、記憶は80分しかもたないので、博士にとっては毎回初対面です。そう考えると、ルート自身への愛情というより、子ども全般への愛情なのかな、とも思いました。
でも、ここで思い出したのが、博士が数学の専門誌の問題を、何か月もかけて解いていたことです。もし本当に何も積み重ならないなら、そんなに長い時間をかけて問題を解くこともできないと思います。メモを通して80分を超えて考え続けられるなら、ルートや「私」との間にも、何かが積み重なっていたのではないかと思いました。
博士は、最初に「私」のことをメモに残していました。うさぎの置物にはルートからもらったことを書き残し、ルートの誕生日もメモしています。「私」が一度仕事を辞めさせられてから戻った時にも、母子についてのメモは残っていました。
母子についてのメモを残していたのも、その場だけでなく、忘れたあとの自分にも2人を大切にしてほしかったからなのかなと思います。メモを通して、ルートと「私」を大切にし続けたいという気持ちも、ちゃんと積み重なっていたんだと思います。
「私」とルートも、博士に忘れられるたびに嫌な顔をせず、何度も同じ説明をし続けます。博士は忘れてしまいますが、3人の間には、目に見えない大切なものがあったんじゃないかなと思いました。
感想は、読み終わったらすぐに書こうと思いました
今回、読み終わってすぐに感想を書かないと、なかなか書けないなと感じました。
以前、三宅さんが、読んだ直後の熱を保存するために感想を書く、という話をしていたことや、小説家の恩田陸さんが、読み終わった後に読書メモを書くと話していたことを思い出しました。
2人の言っていた意味が、今回めっちゃ理解できました。今後は、読み終わった瞬間に感想を書こうと思います。
読み終えた記録
今回の記録:2026年9月28日に、Kindle版を624円で購入。10月7日に読了。
結論:624円の支出は回収済み。
引用の出典・照合資料
小川洋子『博士の愛した数式』(新潮社)。引用文と直線の場面は、新潮文庫のKindle版で確認しました。友愛数の場面と定義は鳴門教育大学の同書紹介で確認しました。
小川洋子『博士の愛した数式』(新潮社)。引用文は、新潮文庫のKindle版で確認しました。
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